東京高等裁判所 平成9年(ネ)2721号 判決 1998年1月22日
控訴人
林玲子
同
大川嘉代子
右控訴人両名訴訟代理人弁護士
松田義之
被控訴人
湘南信用金庫
右代表者理事
香取衛
右訴訟代理人弁護士
山下光
同
瀬古宜春
同
本田正士
同
國村武司
同
高橋瑞穗
主文
一 本件控訴を棄却する(ただし、原判決主文第三項は請求の減縮により、「控訴人らは、宇佐美幸子に対し、原判決書添付別紙物件目録一記載の物件について、詐害行為取消を原因として各持分六分の一についての所有権移転登記手続せよ。」と変更されている。)。
二 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求める裁判
一 控訴人ら
1 原判決中控訴人林玲子、同大川嘉代子に関する部分を取り消す。
2 被控訴人の控訴人らに対する請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
控訴棄却(主文第一項ただし書きのとおり請求を減縮)
第二 事案の概要
控訴人らと被控訴人との間の事案の概要は、宇佐美幸子が、田口武男及び田口智也が連帯債務者として被控訴人に借り受けた三〇〇万円の債務について、連帯保証をしていた宇佐美幸子が、夫から相続した借地権付建物があるのに、債権者である被控訴人を害することを知りながら、これを娘である控訴人らに持分各二分の一の割合で相続させ、宇佐美幸子自身は一切相続しない旨の遺産分割協議をし、これに基づいて控訴人らが右建物について右割合の相続登記をしたことから、被控訴人が控訴人らに対し、右遺産分割協議を詐害行為であるとして取り消し、右建物の持分各六分の一について宇佐美幸子に所有権移転登記手続をすることを求めるものである。
当事者間に争いのない事実等及び争点並びに争点に関する当事者の主張について、原判決書五頁一一行目から一〇頁五行目までを引用する(ただし、原判決書六頁三行目の「(甲五、六の一)」、同七頁五行目の「(甲五、甲六の二)」及び同八頁三、四行目の「(甲一、二、弁論の全趣旨)」はいずれも削除する。)。
第三 当裁判所の判断
一 当裁判所の争点に対する判断も、原判決が事実及び理由中の「第三当裁判所の判断」欄に記載するところと同旨であるから、これを引用する。
二 なお、控訴理由にかんがみ、念のため控訴人の主張に対する当裁判所の判断を次のとおり示しておくこととする。
控訴人らは、第一に、相続放棄が詐害行為取消権の対象とならないことは最高裁判所の判例であるところ、遺産分割協議はこれに準ずるものであること、第二に、遺産分割には遡及効があり持分譲渡若しくは持分贈与とは異なること、第三に、遺産分割は、遺言、寄与分や特別受益等も勘案して決定されるもので、各相続人が当然にその法定相続分を取得し得るものではなく、このように相続人の権利は未確定な権利であり、しかも身分関係等に付随する権利であることを理由として、遺産分割協議は詐害行為取消権の対象とはならない旨を主張する。
しかし、第一及び第二の点については、なるほど相続放棄が詐害行為取消権の対象とならないことは最高裁判所の判例とするところであり、遺産分割には遡及効が認められることは控訴人の主張するとおりである。しかし、遺産分割協議は、熟慮期間中に相続放棄をするのとは異なり、いわゆる遺産共有となっている相続財産について、いったん相続を承認して、もはや放棄することができない状態になった後に、これを相続人間で分割協議することにより他の相続人が相続によって取得したことにするものであるから、実質的には相続人間で贈与するのと同視し得るものというべきであって、遺産分割協議も詐害行為取消権の対象となり得るものと解するのが相当である。また、第三の点については、なるほど一般論としては、遺産分割は、遺言、寄与分及び特別受益等を勘案して決定されるもので、これにより具体的相続分が法定相続分とは異なることがあるのは控訴人らの主張するとおりであるが、そうであるからといって、遺産分割協議は詐害行為取消権の対象とはならないと解すべき理由はない。ただ、遺言、寄与分及び特別受益等の具体的な事情によっては、当該遺産分割協議が詐害行為になるとは認められない場合もあり得るというにすぎないものというべきである。ところが、本件においては、遺言、寄与分及び特別受益についての具体的な主張・立証はなんらないのであるから、これによって本件遺産分割協議が前記のとおり詐害行為であると認めることを妨げられるものではないといわなければならない。したがって、控訴人らの右主張を採用することができない。
第五 結論
よって、被控訴人の控訴人らに対する本件請求(原判決主文第三項は、本判決主文第一項ただし書きのとおり請求減縮により変更されている。)を認容した原判決は相当であって、本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法六七条一項、六一条、六五条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官小川英明 裁判官宗宮英俊 裁判官長秀之)